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銀河系・明日の神話(16):最終章 [ドラマ・ミニアチュール]

●銀河へ還る者たち、そしてエリーよ永遠に●(決定稿)


@田牟礼湖の砂浜。ベージュを帯びた淡い砂色の浜に転がる、肉のない、しっとりと濡れた、象牙色の白く丸く、硬い物体。プルプルは全身にガクガクと震えを覚えながら、そおっと、その丸いものへ近づいていった。

@やっとの思いで、白いものの傍に来ると、プルプルはその大きな両方の手のひらを、ワナワナと戦慄しながら広げ、ゆっくりとその白いものを拾い上げた刹那、彼の大きなビーダマのような2つの眼が潤み始め、湯玉の如き涙粒がホロホロと溢れ出しては、ポト、ポト、と音を立てて彼の足元の地面に落ちた。彼は声をあげて、泣いた。

 「うぃーん、うぃーん・・・」

@プルプルはそのしゃれこうべを、毛むくじゃらの厚い逞しい胸に優しく抱えながら、止め処もなく溢れる涙を拭うことなく、人目もはばからずに泣きじゃくるのだった。「田茂木さんが…しゃれこうべになって、もどってきたんだよぉぉ…」

☆彼が泣くのを聞いて駆けつけた他の4人も、彼の傍に寄ってきた。真佐雄と乃理子は、プルプルの大きな身体に寄り添い、共に涙していた。カラルディは、胸に湧き上がる悲哀を必死に堪え、両の拳を固く握り締めていた。その拳は小刻みに震えていた。

@ジークフリートは、といえば、命の恩人と、少しだけの間、ささやかな愛を捧げた相手を一度に失い、ただ呆然となっていた。

 「オレはこれから如何すればいいんだ…。おまけに、片方の珠は、まだ見つかっていないじゃないか…。折角、…折角…百合子さんのことをようやくハッキリと思い出したのに…。ロロン…君を失い、田茂木さんまで今やこの世にいなくなってしまった。必ずいっしょにこの珠の、片割れをあの悪しき三人組から取り返すって俺は決めていたのに…。

@そのときだった。突如、ジークフリートの懐がぽわぁっ、と淡い青に光った。「おお…!ひょっとしたら、あの三人組に奪われた珠が呼んでいるに違いない」、彼は田茂木と思しい頭蓋骨を囲んで悲しみに暮れる残りの4人を一瞥するや、いきなり、だだっ!と、森の向こうへロケットダッシュで駆け出した。

 「あっ、ジークフリート!」

@「何処へ行く!」…彼の異変に気付いたカラルディが呼び止めるも、その声は彼、ジークフリートの耳にはもう、入らなかった。彼は緑濃き密林の向こうに姿を消した。

@ジークフリートの懐の光は、どんどんその輝度を増していくように思えた。彼は走った。
 「白と黒の珠の、三人組に奪われた、片割れが、オレを呼んでいる…!」 彼は心の中でそう必死に叫びつつ、走りに走った。

@やがて、彼は森の奥まったほうに入った。懐の青白い光が、一層明るく輝いていた。ジークフリートは地面を見やった。すると、人間のと思しき腐乱しきった死体がみっつころがっていた。一部白骨化しているものもあった。観ると、赤毛のモヒカンの頭をした人間の死体から、光が発せられた。

 「ううっ…」

@ジークフリートは、死人たちからむわむわとこみ上げる腐敗的臭気を堪え、その光るものを拾い、自分の持っている青白く光る珠とあわせた。瞬間、パアアッ!と目もくらむ光が発せられたと思うと、その光の向こうに、人影らしきものが現われた。

 「誰?」

@見たところそれは、女性の姿をしていた。彼女は語りかけた。「ジークフリート…」 その声を聴いたジークフリートの驚きやいかばかりか。

@彼の震える唇の間から、言葉が漏れた。「…百合子さん…!」


@ジークフリートを除く4人は、田牟礼湖の砂洲の上で、この上もなく深い悲しみに呉れていた。ロロンの残骸を入れた緑色の透明アクリル箱と、田茂木の頭蓋骨とを並べて、その周りを4人で円く取り囲んで、ささやかな葬儀を行なっていた。

@小1時間後、プルプルが立ち上がり、死者を弔う歌を歌いながら、長く太い腕を天空に掲げて、右へ左へ舞うように振った。死者を天空へと贈る儀式だという。他の3人はその歌に静かに耳を傾けていた。真佐雄と乃理子には、彼の歌う深い悲しみに溢れたメロディが、密林の隅々にまで流れていくように、思えたのだった。


@悲しみの一日が暮れ、夜になった。何故かジークフリートが帰ってこない。流石に4人は心配になり、彼を探し始めた。懐中電灯とコンピュータコンパス、そしてプルプルの道案内を頼りに、自分たちの元をいきなり飛び出したまま戻ってこない彼を必死になって探していた。

 「全く!何て奴だ」プルプルが吐き捨てるような口調で言った。
 「みんなが悲しみに暮れているときに、いきなり何処かへ鉄砲玉のように飛び出していくなんて」
 「でも…彼には彼なりに、そうしなくちゃならない理由があったんじゃないか」真佐雄がなだめるように言う。
 「理由は如何あれ、このプルーレの森は危険がいっぱいなのに!」
 「そうむくれるなプルプル。まずは彼を早く見つけ出す事が先じゃないか。頼りにしているからな」今度はカラルディが言った。
 「うん・・・」
 「君の道案内が、この神秘の惑星を行くには一番頼りになるんだ。こんな機械なんかよりはね」と真佐雄が右手に持った、平べったい円形をしたコンピュータコンパスを眺めながら言った、その刹那であった。
 「真佐雄さん!プルプル!カラルディさん!」乃理子が向こうを指差して大きな声をあげた。彼女が指差す先を3人がいっせいに目を向けた。途端に彼等は言う言葉を失った。


 「!」

@陰鬱たるくらいプルーレの森の中で、そこだけは別世界のように、眩かった。

@そこには三人の人間の腐乱しかかった死体の前で、眩く光り輝く2つの球を手にして、滂沱の涙を流しているジークフリートの姿があった。

 「百合子さんが呼んでいます…」
 
@彼は皆のほうへとゆっくり振り向くと、こう言った。


@「呼んでいる…って?!」 3人の顔に怪訝な色が浮かんだ。カラルディが言った。

 「とにかく、続きは後で聞こう、ジークフリート」

@4人は、光る球を抱えているジークフリートと共に、死体の転がっている現場を離れ、元のキャンプ地点へと戻った。


@キャンプ地点にて。ジークフリートの周りを囲む4人の姿。
 「…百合子さんは、まだ生きています、地球で…。この2つの球が、合わさったとき、百合子さんの、姿が、光と共に現われ、生きている事を、教えて、くれたのです…」

@プツプツと途切れ途切れに語るジークフリート。しかしその顔はこれまでに見たことがないほどの喜悦に満ちていた。皆は、未だ光を放つ2つの球が自分たちの後ろに投げかける光を見た。何と其処には、東洋人と思しき美女の姿が浮かんでいた。

 「おお・・・!」

@その神々しさすら漂う姿に、4人は溜め息をつくのであった。

@翌日、彼等5人はカラルディの運転する航行機に乗り、プルプルの案内でトゥープゥートゥー村に向かった。

@航行機が村の上空にやってくると、真佐雄と乃理子が久々にこの村に来た時と同じく、村人たちがいっせいに飛び出してきた。航行機が村の広場にゆっくりと着陸し、中のハッチが開くと、4人の男女と毛むくじゃらの大男が降りてきた。村人はわーっと群がり、「こんにちは!こんにちは!」と口々に言いながら、歓迎のくすぐりをみんなでしだした。

@「わははははは…」真佐雄と乃理子、プルプル、ジークフリート、そしてカラルディは、あまりにもこそばい村人の愉快な歓迎振りに原がよじれるくらいおおいに笑った。木の上に設えられている、例の村の集会場に、彼等は通され、温かい歓迎の宴を受けたのだった。プルプルは久しぶりに父母兄弟と再会し、彼等に喜びのメロディ言葉を唄って聞かせていた。父母兄弟も一緒に再会のヨロコビを歌にしていた。

@一夜明けて、彼等3人は、長老の案内で、村のすぐ近くにある、ルスターと呼ばれる白い大理石で出来た古代神殿に趣いた。

@この白い神殿は古代プカスカの美と神秘の女神・アメルを祀る神殿であった。真佐雄と乃理子、プルプルにとっては幼い日の冒険の思い出が一杯の場所でもあった。大理石で設えられた広場を抜け、一行は神殿の内部に入っていった。プルプルは、白い帆布にくるまれた2つの箱を抱えていた。

@やがて、神殿の中で一番神聖な空間である「星座鏡」の部屋に、一行は入って行った。神殿の神務官2人がうやうやしく出迎え、2つの包みを受け取り、静かに星座鏡の上に置いた。

@夜になった。天空の輝ける星座が鏡の上に映し出されるや、その空間がすべて輝ける星座の群生に包まれていくように見えた。神官が死者を弔うべく、深い祈りを捧げている。2つの白い包みは、それぞれロロンの残骸の入った箱と、田茂木の頭蓋骨を納めた箱であった…。一行は項垂れ、ホロホロと熱い涙を流しながら、静かに彼等の冥福を祈っていた…。

@非業の死を遂げた2人の魂は、宇宙の中で清らかになり、宇宙の律動の中に溶け込んでいく…。そのようなイメージが浮かんできそうな儀式は、神官の唄う美しい弔歌をもって、終わりを告げた。


@ロロン、田茂木茸雄・・・この2人の歩んできた人生とは、いったい何だったのか。彼等は真っ当に生きたいとそれぞれの立場で願いながら、何れも幸せ薄いまま、一生を終えてしまった。

@惑星ピンダロスにある、とある町の、大人の玩具屋に置いてあった、大きなカプセルに入った、いわば人形だったロロン。ドド・アスベンの手で封印を解かれて、地球に飛ばされて、田茂木と出会い、恋に落ち、愛し合った。彼等は生涯に亙って連れ添い、人生をまっとうするつもりだったのだろう。ロケットに乗ってここエリーに向かい、モルディカヤという緑色の宝石のような蝶を探しに行くはずだった彼等。

@それが悪魔のような考えをもつものたちによって、モルディカヤを探す計画も潰え、ロロンは発動させてはならない秘密モードを発動させて、悪魔の3人を殺し、最後に田茂木の前で落雷を受け、その一生をあっけなく終えたのだった。そして田茂木も彼女を追うようにここ、エリーで死んだ。

@ただひとり、田茂木の後輩だった最上百合子に会うジークフリートだけが生き残った。彼は、あの悪魔の3人の手に渡っていた、不思議な球の一つを取り戻し、百合子の消息を知ることが出来た。

@5人は、彼等の人生の軌跡に思いをはせながら、キラキラと煌く星座の世界の中に、何時までも静かにたたずんでいた。



・・・・三年後・・・・

@真佐雄は、あれから乃理子とともに、惑星エリーを離れ、乃理子の留学先でもあり、田茂木の父の故郷である惑星プカスカで、新しい人生をスタートさせていた。彼等の間には二人の可愛い子ども…双子の兄弟が出来、幸せ一杯で充実した生活をしていた。無論、2人とも各々、惑星生物学者、惑星考古学者である故に、研究生活との両立は大変だったが、今はトテモ充実している。プルプルは村の名士となり、村の発展と破壊されたエリーの自然の復興に、移住してきた学者等と一緒に取り組んでいるという。

@なに?ジークフリートは如何したか、って? 彼はあれから無事に地球に帰ることが出来、植物人間になっていた百合子と再会し、あの2つの球を彼女に贈り物として捧げ、彼女が息を引き取る日まで、介護を以って献身的に、愛を捧げ続けた。

@彼女が死ぬ前日、突然に意識を取り戻し、ジークフリートを欣喜させた。彼女は今日だけでよいから、床を共にしてくれとせがんだ。
 「・・・、そ、そんな・・・」
 「お願い・・・」
 ジークフリートは突然のことでどぎまぎしたが、愛する者の願いゆえ、聞き入れることにした。

@夜になり、彼女の横たわる床に入ると、肋骨が浮き上がるほど、すっかりやせ細った彼女のかいなが、彼の堂々たる裸体を抱きかかえるようにして、ゆっくりと伸びてきた。百合子は、その命がいよいよ消えんとするときに、最後の、ありたけの情熱を振り絞って、彼を抱きしめようとしている。

@女の細い指先が男の逞しい背中に触れると、男の全身は歓喜に震えた。男は女の命をかけた愛と情熱に応え、彼女をその逞しきかいなでしっかと抱擁した。彼らは互いに全身をなであいながら、何もかも忘れたように、紅蓮の火と燃える情欲界に入っていった。

@それからは…彼らは互いに肌を合わせる歓喜に震え、心行くまで酔い痴れながら、互いの絆を固める為の神聖な行為に入っていった。

@百合子の両足をジークフリートが恐る恐る開くと、そこには瑞々しい淡紅色の花が、ねっとりとした透明な液膜をまとって、とくんとくんと脈を打ちながら美しく咲いていた。

@そのとき、彼女のか細い手が伸び、彼のものを持ち、花の中に入れようとした。果たして、ジークフリートのそれは、花の中に深々と入っていった。

@彼はふぅふぅと荒い息をし、腰を前後に揺らしながら、さらに深くそれを差し込んでいった。花の中は、死に趣く人のものとは思えないほど、燃えるように熱かった。百合子の花は彼のそれを強く締め上げた。2人は快楽とも苦悶ともつかぬ顔で、この神聖な行為に没頭していった・・・。

@夜明けを迎え、ジークフリートが目を覚ますJと、百合子は自分に抱かれたまま、これまでに見たこともないほど、安らかな顔で亡くなっていた。

@床に差し込む朝の光の中で、彼はまだぬくもりの残る、彼女の亡骸を何時までも抱きしめていた。彼は彼女の美しい死に顔を見つめながら、自分と百合子の絆が永遠になったことを感じ、同時に最早、彼女を失ったという厳粛なる事実に感情の堰が切れ、はらはらと熱い涙を流していた。

@それからの彼は、荼毘に付され、遺骨となった彼女と共に、地球中をさ迷い歩き、最後には、遠くブエノスアイレスの、昔ながらの裏町で、ボロを纏って、白い骨壷を抱えながら、所願満足の顔で、半ば朽ち果ててしまっていた。皮膚はからからに干からびてミイラ化し、所々が破けて、骨と機械が覗いていた…。それは、田茂木とロロンの2人に惑星ソラリスの海から助け出されてから、ちょうど3年後のことだった。


@さて・・・真佐雄と乃理子には、今でも時折、思い出すことがある。子供の頃以来、久々に訪れた惑星エリーで起こった、数々のできことである。もう3年も前になるのに、ついこの間のように思い出される。そのたびに、2人はかの星で非業の死を遂げたヒューマノイドと、彼女の伴侶だった昆虫学者の、魂の平安を願うのであった。


・ENDE/完・この物語はすべてフィクションです。(2011・06・19改訂/2011・07・10再改訂)
タグ:SF物語

銀河系・明日の神話(15) [ドラマ・ミニアチュール]

●そして、田茂木も・・・●


∴鬱蒼たる湿地帯の森の中で、田茂木茸雄が自分の相棒であり恋人でもあるロロンの死に動転し、かつ慟哭していた丁度その頃、惑星エリーの上空に、ピカッと光る点が現われた。はるばる惑星ソラリスから、田茂木との再開をかねた植物調査のため、エリーを目指していた惑星植物学者・カラルディの乗ったロケットだった。

∴カラルディのロケットは、エリーの大気圏に突入すると、その湿地帯・プルーレに向かって、機体を安定させ、鬱蒼たる密林の続く地上の、遥か上を航行していた。

∴「おかしいなぁ、確か…奴のいるところはこの辺のはずなのだが…」カラルディの乗るロケットの、コックピットに搭載された超高性能脳型コンピュータを内蔵したスペースコンパスが指し示す方角の地点に、田茂木はいるはずだった。このコンパスは、エリーのような地球型惑星の中にいるときは、目的の方角にいる人間の発する体温や生体反応などを正確にキャッチできる特別仕様である。然し今回は、その目的とする場所にいる筈の、人間の生体反応が一向に感じられない。

 「きっと彼はこの地点から別のどこかに移動したに違いない」

∴コンパスを見ながらカラルディはプルーレ上空を探し回ることにした。と思い定めてコックピットのフロント硝子から外の光景を見たとき、遥か前方に煙が立ち昇っていた。鋭敏な頭脳を持つカラルディには、それが何であるか、すぐにピーンと来た。

∴東北の方向に複数の生体反応アリ。コンパスの中のコンピュータが音声でガイド。「わかっているさ」そうつぶやくとカラルディは、ロケットエンジンの出力を最大にして、高速で煙の上がっている方向へと向かっていった。


∴やがて、煙が上がっていた問題の現場に、カラルディのロケットは着いた。ハッチが開いて、細身の肉体にフィットした銀色の宇宙服を来た人物が降りてきた。ヘルメットを取ると、派手な赤毛のハンサム男の顔が現われた。そんな彼の2つの眼に入ったものは、迷彩服を着た3人の男女と、エリーの先住民といわれる、毛むくじゃらの種族らしき生き物がいた。

∴そして彼等の向こうにいるのは、カラルディの親友だった、プカスカ人と地球人の混血である惑星昆虫学者の、あまりにも変わり果てた姿だった・・・。

∴「田、田茂木・・・」カラルディは田茂木の名を口にしたきり、言葉を掛けられなくなった。


∴白い球体を手にした田茂木茸雄は、もうカラルディや4人の若者の知っている、あの磊落で勇敢で、頭脳鋭敏な惑星昆虫学者ではなく、焦点の定まらない視線をジャングルのあちこちに投げかける、精神に完全に破綻を来たした哀れな男に過ぎなかった。そんな男を見つめて、カラルディを含めた5人はただ悄然とするしかなかった。

∴ロロン…やっと地球に着いたんだよ…還ってこれたんだよ…フフフフ…昔ながらの緑の地球に!…ハハハ…ハハハハハ…。田茂木の破綻した精神は、嘗ての緑豊かな地球に戻った自分とロロンの姿を幻視しているようであった。


∴「茸雄さん…茸雄さん…フフフ…」
「ハハハ…ハハハハ…」 
 若い頃から英才の誉れ高かった田茂木の頭脳は、今やロロン破壊のショックで、すべての回路が完全にいかれきってしまったようだ。今5人の目の前にいる彼は、言葉を発する白い球体をもてあそびながら、えへらえへら笑いながら、その場をただくるくる回るだけの完全なる狂人でしかなかった。

∴「何故」カラルディは5人に聞いた。「何故…彼はこうなったんだ?」彼の問いに、後ろにいた男が答えた。ジークフリートだった。彼は両目に一杯涙を溜めながら、いった。

 「3人の悪い奴に攫われた女形ヒューマノイドのロロンを探しに行くって言って…GPSが自動的に反応したので行って見たら、こんなことになってて・・・ロロンは破壊されたらしくて、そのショックであんなになったんだ…」

∴ふとカラルディはジャングルの天辺あたりを見上げた。如何やら落雷があったようで、樹冠のあたりの木の枝や葉が激しくこげている個所があった。表面が引き裂かれている木もあった。そこから視線を徐々に下に移すと、其処の地面が人の形のよう黒焦げになっていた。黒焦げの部分には、人骨と思しい骨のかけらに混じって、何故か電子機器の破壊された断片と思われるものが複数個、転がっていた。

∴生身の人が落雷で焼け死ぬとき、かなりの数の、電子機器の断片がそのあとに転がるだろうか。やはりこれは、田茂木の大切な相棒のロロンの…。ロロンは田茂木と再会する直前、まさに彼の目の前で、落雷によって完全に破壊されてしまったに違いない。カラルディはそう考えた。


∴カラルディと、岩沢真佐雄、森沢乃理子、ジークフリート、プルプルの4人は、人型の焦げ跡からロロンの断片を拾い集めた。一箇所に集められたロロンのかけらたちは、エリー先住民の子・プルプルの、大きな両手で充分に抱えられるほどに、小さいものだった。プルプルが言った。彼も眼に一杯涙を溜め込んでいた。

 「これだけになっちゃったんだな…」彼の両手の一抱えには、僅かなる金属質の骨の断片と、焼け焦げた夥しい電子回路のかけら、そして、これも僅かな肉片や皮膚の切れ端だけだった。プルプルはその断片の寄せ集めに、ぽたぽた、と湯玉のように大きな粒の涙を、幾つも落としていた。彼の背中が小刻みに震えている。プルプルは悲しみを堪えきれずに背中を震わせて、泣いていた。

∴落雷は、恐らくロロンを丸ごと吹っ飛ばすほど大きなものだったろう。その破壊力で、彼女は木っ端微塵に破壊された。ので、これだけの残骸しか残らなかったのだ。それを見つめている若者たちから、すすり泣く声が漏れてきたのを、カラルディは聞き逃さなかった。

∴「彼女を収める箱はありますか」真佐雄が目に一杯涙を溜めて尋ねた。

 「箱か。箱なら、今もって来る」

∴ロケットの中に戻った彼は、ゴソゴソとなにやらやっていたが、やがて透明なアクリルの蓋つき箱を見つけると、それをもってきた。それはソラリスを出発する際に、彼が持ってきたお菓子の空き箱だということは、カラルディは言わなかった。

∴やがて、プルプルが残骸の一抱えを、その箱に静かに優しく入れた。
 
 「ロロン…安らかに眠ってね…」

∴悲しみのメロディ言葉を彼は歌い始めた。トゥープゥートゥ族が死者を送るときに唄う、伝統の葬送歌曲である。
 
 「優しき花は今は散りぬ…花の魂は今ぞ星空へと旅立ちぬ…星座は花の美しきを称え、満面の歓喜を以って汝を迎えるなり…」


∴カラルディはその美しくも、深い哀調の溢れる歌に、涙しつつも、惚れ惚れとして聞いていた。


∴一方、田茂木はそんな彼等の悲しみを意に介さないかのように、幻視の中にロロンと共にいた。「さあ、行こう、ロロン。地球の果てまで美しい蝶を探しに!」そう言うと、意を決したように立ち上がる。

∴「茸雄さん…フフフ…茸雄さん…」としか最早言わない、人工意識の白い球体だけになったロロンを手にしながら、田茂木は気が狂っているのがまるで嘘であるかのような、颯爽とした足取りで歩き出し、森の奥深くヘ向かっていった。

∴ふと真佐雄が後ろを振り向いた。が、其処に田茂木の姿はなかった。
 
 「田茂木さん!」
 
∴他の4人もこの異変に気付いた。そのときは、田茂木の姿は森の奥のほうに消えかかっていた。カラルディが叫んだ。「おーい!戻ってこぉーい!」

∴・・・だが、もうその声は、田茂木茸雄には、届かない。カラルディを始め、岩沢真佐雄、森沢乃理子、プルプル、ジークフリートの5人は、必死の形相で彼を追跡し始めた。鬱蒼と茂って、ゆく手を邪魔する草むらに苦戦しながら、それらを掻き分け掻き分け、彼らは懸命になって田茂木の跡を追った。

∴…田茂木茸雄は、今や、狂気の中で完全に、明朗な心境の中にあった。彼の崩壊した脳回路は、惑星エリーの中にあるこの湿地帯の現実を最早映し出そうとはしていなかった。彼の眼には、其処は最早、昔なつかしの緑溢れる地球の森として、映っていた。

∴彼の傍らには、ロロンが昔のままの変わらぬ姿で、一緒に歩いていた。田茂木に向かって微笑を向け、彼の腕に寄り添いながら、昆虫採集の道具を手に、彼と一緒にいた。無論このロロンは彼の狂気に支配された意識の中で、映し出された幻視の中の影像にしか過ぎない。本当の彼女は、落雷と共に木っ端微塵に破壊され、今やプルプルの手で抱えられただけの、原形をとどめぬ残骸の集まりと化していたのだから。

∴田茂木はロロンの幻影の中にいたまま、どんどん森の奥へと入っていった。5人も彼が持っているGPSの発信信号を頼りに、彼の跡を追いつづけていたが、突如、そのGPSが急に、信号を送らなくなった。

∴「まさか!」5人の表情に暗い影が走った。彼らそれぞれの脳裏に、田茂木が遂に命を落としたのではないかという、出来得るならば受け入れたくない予感がよぎった。早く助け出さないと!5人は歩みを急いだ。

∴必死に鬱蒼たる草むらを掻き分けて、漸く田茂木にたどり着いた、と思った刹那、
 
 「あっ!」

∴みなの目の前で田茂木の姿が、ふっ!と消えてしまった。田茂木の消えた地点へ皆が急いで近づくと、其処には、直径が1mほどの円く開いた大穴があり、しゃわしゃわとうたう水のせせらぎが聞こえていた。

∴そのせせらぎを目当てに、彼らは諦めず、必死に田茂木の後を追いかけた。数km追ったときであろうか、彼らは、如何やら、彼等にとってここ最近見覚えのある、水の満々と湛えられた場所にたどり着いていた。

 「田牟礼湖じゃないか!」カラルディが叫んだ。
 「あの穴の底に流れていた清流は、ここ田牟礼湖と繋がっていたんだ」
 「すると、田茂木さんは、まさか・・・」乃理子が不安そうな顔でカラルディに尋ねた。
 「そのまさか、だ」カラルディは悲しみを秘めた眼をして彼女に応えた。

∴彼らは、遂に田茂木茸雄が命を落としてしまったことを、完全に確信せざるを得なかった。透き通った湖水が身の上の、田牟礼湖の水深は深く、また、彼が落ちたせせらぎは聞いた音から判断すると、流れがとても早そうだったからだ。

∴「あんなに流れが急じゃあ、落ちたら助からないよね・・・」プルプルがもう手の施しようがないよ、といった哀しそうな調子でつぶやくようにいった。彼の手には、透明な緑色のアクリル箱に入ったロロンの残骸がまだあった。
 「田茂木君は、湖の底の人になったんだ、ロロンと共に…さあ、2人の冥福を祈ろう…」今度はカラルディが沈痛きわまる面持ちで言った。

∴5人は田牟礼湖のほとりに悲しみを抱えてたたずんだまま、暫くその場を離れなかった、否、離れられなかったのだ。


∴同じ日の真夜中の事であった。田牟礼湖の湖底に沈んだ田茂木の遺骸は、巨大なアノマロカリス・エリーイやその他の腐肉を好む肉食魚等の餌食になっていた。つい数時間前まで、人の姿をとどめていた肉の塊は、ものの3分で見事に骨だけとなってしまった。

∴田茂木茸雄が、田牟礼湖の湖底で骨になった事を露知らぬカラルディら5人は、この田牟礼湖の砂浜の近くに寝泊りしていた。…数時間後、朝日が厳かに昇り始め、田牟礼湖の湖畔にもその光が差し込んできた。

∴それから数日経った。爽やかに鳴く朝の小鳥たちの声を聞いて、プルプルが毛むくじゃらの顔を洗う為に浜へと向かった、そのときだった。  

 「うわーっ!」

∴突然、プルプルが叫び声を揚げると、他の4人も、一斉にそっちへ向かった。見ると、プルプルが、砂浜で震えて蹲っているではないか。

 「如何した?! プルプル!」
 「あ・・・あれをみて・・・」

∴4人はプルプルが指を指す方向を見た。 「きゃあああー!!」乃理子が金きり声をあげた。

∴…他の3人も凍りついたように慄然となった。浜に視線を向けると、そこには真っ白になった頭蓋骨が打ち上げられていた。
 これは…田茂木茸雄のものに違いない。 5人は、そう思った。しかし、ロロンの人工意識の白い球体は、そこにはなかった。


・(16)=最終章に続く・この物語は全てフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。
(2011/02/12 加筆修正)

銀河系・明日の神話(14) [ドラマ・ミニアチュール]

●ロロンの受難(2)●


@目覚めたロロンは、欲望に狂った男たちの姿を見るなり、目をらんらんと光らせてバッ!と飛びかかった。

 「うわーっ!」

@彼女のあまりの剣幕に恐れをなしたか、男たちはテントの中からいっせいに田牟礼湖のほとりの、反対側に駆け出していく。

@「ひぃええええええ!!」叫び、逃げる男たち、追いかけるロロン、彼女の口から出た言葉は…

 “第6のモードが作動しました…第6のモードが作動しました…”

@「第6のモード」?ロロンの人工頭脳意識設定モードは確か5つしかないはず。つまり①人形モード②リモコンロボットモード③精密機器修理モード④人間的思考活動モード⑤初期状態回帰モードの五種である。それなのに、第6のモードが作動した、という。…如何やらこれは、ロロンの活動を掌る5モードの他に、脳型コンピュータに密かにプログラミングされた“秘密の”モードらしい。今回のように、彼女の身に咄嗟の出来事が起こったときに発動するもののようである。

@「わあああーっ!助けてくれえー!!」悲鳴をあげながら、逃げる3人の愚かな男たち。このプルーレの森の中は足下が非常に悪く、厚く敷き詰められた落ち葉の下にある岩や木の根っ子が、しだや苔や変形菌などと共に複雑に絡み合っている。ので、下手に早足で逃げようとすると、躓いたついでに骨折などの怪我をしやすく、更に、万が一転んだときにサーベルタイガー(剣歯虎)や体長5cmもある巨大軍隊蟻等、プルーレに棲む危険な生き物に襲われ、餌食になる可能性も高い。だから早く逃げようとしてもうまく走って逃げるのは難しい。

@それでもロロンというこのヒューマノイドは、頭頂部にある5色の小さなボタンを押せばすぐに作動出来るモード以外の秘密モードで今動いているので、こんな足下の悪いジャングルの中でも素早く動いて相手を追いかける事が出来るのだ。

@ロロンは、まだ叫んでいた。が、それは何時もの、④のモードで作動しているときのような、田茂木茸雄を愛しているあの少女の、やさしくしっとりした生々しい音声ではなく、コンピュータ合成音声特有の、生命感のない機械的な音声であった。

 「第6のモードが作動しました…第6のモードが作動しました…破壊活動モードに入っています…これから対象標的の特定に入ります…ピーッ」

@もはや彼女は、あの優しい少女ロロンではなく、ただの精巧に作られた、電子式精密機械の一種に過ぎなかった。その精密機械の、眼球の奥が、赤く光った。と思うや否や。

 びぃぃぃぃぃーっ!

@鋭い電子音と共に、彼女の二つの眼から赤い光線が発射された。既に標的は3つに絞られ、光線はその3つに向かって発射された。

 ばああああっしゅ!!!

@一瞬の内に、3つの標的は、ジャングルの土の上に、ばたっ!ばたっ!…ばたっ!と相次いで倒れた。ドド・アスベン、朝永、アスピナーレの3人だった。

 「う、ウウ…な、何だ…今のは・…うう…」

@まだ息のある朝永がかすかに手を動かしながらうめくようにつぶやいた。あとの2人は、如何やら頭を打ち抜かれ、即死んだようだ。

 「ロ・・・ロロン・・・お、・・・まえ・・・が・・・」

@朝永はそういいかけると、落ち葉が敷き詰められたジャングルの地面にどさっとうつぶせになったきり、二度と動かなくなった。

@ロロンの秘密モード。それは彼女とジークフリート号の開発者・プーロン忍成博士が密かにこのロロン号の、脳型コンピュータに仕込んだ⑥破壊活動モードであった。実はこれが作動したが最後、もう元の5つのモードの、いずれかに切り替わる事は出来なくなるように、量産型に切り替える際、博士がプログラミングしたのだった。

@惑星昆虫学者の田茂木のパートナーをしているこのロロン号を始め、全ての量産型ロロン号は、自分自身に確実に危険が迫ると、途端にこのモードに切り替わるように出来ている。そしてこうなったら壊れるまで、二度と元には戻らないようになっているのだ。

@然し何故博士がそのようなモードを彼等の脳にプログラミングしたのか、意図は全く不明。だが、ロロン号を製造出荷しているアンドロイド企業の従業員及び役員は「ひょっとしたら、あの人は、何れこの製品をハイパー兵器として、銀河系内外の各惑星の軍隊に送り込むことを考えているのかも…?」と密かに噂しあっていたそうな…。

@「ぴーっ、ぴーっ、次の標的は、東南東2㎞にあり」最早電子音声しか発しない、ただの、ものを壊しまくる機械でしかないこのヒューマノイドは、今度は嘗て自分の相棒だったはずの、田茂木たちを標的にし始めたようである。早速きびすを返して、ヒューマノイドは、今来た道を戻っていった。

@丁度その頃、ロロンがいなくなって腑抜けになってたはずの田茂木茸雄が、流石に心配になったのか、鬱蒼たる視界不良好な森の中を、彼女を見つけるために、足下がふらふらするのも構わず、探し回っていた。

@ヒューマノイドの眼が又も赤く光った。「前方に標的発見、殺傷光線発射の準備に入ります」 その標的とは…嗚呼、田茂木茸雄その人だった。

@もうこのロロンは田茂木の知っている、お互いに心から愛し合っていた間柄の、あの優しい少女ではなく、ただの人殺しの機械に過ぎないのだ。それを知らないで彼女を探し回っている田茂木。彼の命は、あともう少しで、彼女の手によって奪われようとしていた。田茂木に危機が迫った、まさにその時…!

 ゴロロロ…ドドーン!! 

@遠くから激しい雷鳴が轟いたかと思うや、田茂木の視線の向こうで、急激にぴかっ!とこれまでにないほど、眩しく激しい閃光が炸裂するのが見えた。

@森中の鳥という鳥、小さな生き物という生き物が、いっせいに驚きの鳴き声を揚げた。その頃、何処を探してもロロンが見つからないので、田茂木がロロンを探しに行くのと入れ替わりに、エアーハウスに戻っていた4人も、この激しい雷鳴と動物の騒ぐ声を聞いた。

 「GPSから今発信があった。田茂木さんに何かあったかも!」真佐雄が言った。
 「急げ、何かあったら大変だ」今度はプルプルが急いで仕度しながら言った。

@4人は急いでエアーハウスを出て、田茂木を探しに出かけた。


@一方、稲光が落ちたところへ、田茂木は漸くたどり着いた。彼は黒焦げになった、木の葉が敷き詰められた地面を見た。まだ燻り続けているらしく、白い煙がまだゆらゆらと立ち込めていた。何か肉のこげたにおいと、金属質のものが焼けた臭気が混じった匂いがしていた。地面をよく見ると、それは人形(ひとがた)をしていた。

@彼はヘンな胸騒ぎを覚えて、急いで其処に近づこうとした、が、途中で石に躓いたか、どてっ、と転んだ。転んだついでに何かを掴んだ。瞬間、彼の全身から一気に血の気が引いた。

@それは音声を発していた。妙齢の女の発する、人間の生々しい声だった。それは、自分が常に聞いたことのある、人物の声そのものだった。そしてそれは・・・


 「茸雄さん・・・茸雄さん・・・何処にいるの?・・・茸雄さん・・・」

@自分が今さっき手にした、小さな球状のものから出ていた声は、まぎれもなく、彼と一緒にいた、あの懐かしいロロンの声だった。彼は、のどが張り裂けんばかりに、絶叫した。

 「うわあああーッ!」

@それは田茂木の心の底からの、精神の断末魔の声だった。


・(15)に続く・この物語はフィクションです。実在の人物・団体・企業とは関係ありません。


銀河系・明日の神話(13) [ドラマ・ミニアチュール]

●田牟礼湖の3悪人●


@ロロンが何ものかにさらわれ、姿を消して数日が経った。依然として彼女の行方が掴めない事に、田茂木茸雄を始め、ジークフリート、岩沢真佐雄、森沢乃理子、プルプルの5人は、身が細るほどの心配と、眉間にしわが寄りそうなほどの苛立ちを感じていた。ロロンは、ひょっとしたら、何処かの悪党に掻っ攫われ、バラバラにされてしまっているのかもしれない・・・そんな最悪の事態を、プルーレの森にいるこの5人の誰もが想起せずにはいられなかった。

@「何処へ連れて行かれたのだろう…ロロンは…解体されていなければよいが」すっかり憔悴しきった表情でこうつぶやく田茂木の姿を見て、真佐雄が励ますように言う、「そんな事はないです。きっと大丈夫です」

@「そうだとよいのだが・・・」ふぅ~、と溜め息をつく田茂木。あれほど自分の傍を片時といえども離れなかった、心底愛する女が、あの日、突如自分の前からいなくなってしまったが為に、彼は気力を失い、何もやる気がなくなっていた。その姿はいわゆる「腑抜け」そのものであった。

@ジークフリートは田茂木の、そんな様を見て、彼がどんなにあのロロンを愛しぬいているか、漸くわかるようになっていた。そのときだった。

@嘗て自分を心から愛してくれていた、一人のうら若き女性の姿を、彼ははっきりと思い出した。…ジークフリートの脳裏に、ロロンへの“恋”ゆえ、久しく思い出せなかった元の主人・最上百合子の記憶が、今になって鮮明に蘇ったのだ。

 「百合子さん!・・・」

@彼はその薄い、ピンク色をした形よい唇から、ほとばしるように百合子の名を呼んだ。

 「えっ?!」

@皆がふっと振り向いた。かなり大きな声だったらしい。が、ジークフリートはそれに気がついていないようであった。


@田茂木を除く4人は、気を取り直し、再び彼等の「秘密基地」を出発し、ロロンを探しに行った。鬱蒼たる原始的な樹木ばかりの、昼尚薄暗い森林を、分け入って、分け入って、また分け入って…しらみつぶしに探したが、彼女…ロロンらしき姿は全く見当たらなかった。バラバラにされて、どこかに捨てられた可能性も高い。が、また何処かで生きているやもしれぬ。

@希望と絶望とが半々ないまぜになった心をそれぞれの胸のうちに抱えて、彼等4人はそれでも、必死に彼女を探し回っていた。サラサラと流れるような黒髪と、美しく透き通ったエメラルドのようなひとみを持つ、この上もなく美しい、人造人間のロロンなる少女を。


@その頃、プルーレの中心部にある田牟礼湖では、迷彩のテントの中で、例の3人が、ニヤニヤしながら、捕まえた女を見つめていた。卑猥さと、はちきれんばかりの生臭い性欲を、それぞれ全身にみなぎらせつつ…。 

@女は睡眠薬を飲まされたあと、裸にされて眠っていた。

@ちょっと触ると破けてしまうのではないかと思われるくらいに透き通った、白くやわらかい肌、豊かな丸い果実のような、青い静脈が微かに浮かび上がる乳房、珊瑚のように艶やかなピンク色をした乳首、はっきりとくびれたウェストの線、大きすぎず、小さすぎない程度の、綺麗に丸い臀部、健康的にすらりと伸びた美しい脚、桜貝のような両手両足の爪、そして流れるように長く伸びた、サラサラとして艶のある黒髪。長くて程よく巻き上がった睫(まつげ)。みめかたちよい目鼻立ち。3人はついにこの美女を手に入れた興奮と歓喜、そして、一刻も早く、女の中に自分たちの「もの」を入れ、中で思いっきり噴射し、彼女と共に“昇天”することで、あたまの中が容量オーヴァーになっていた。

@3人のバカは、一向に目を覚ます兆しの見られない彼女を目の前にして、誰が先に彼女と行為をするか、決める事にした、ジャンケンで決めるなんてのは子供のやる事だ。もっと他の決め方がないのか、などと侃々諤々の議論をしている。たかが女とやるのに“侃々諤々の議論”なんて果たして、必要なのだろうか。…暫く議論したあと、漸く結論が出たようだ。

@「くじ引きにしよう。ここにおみくじがある」と言って八角形の箱を見せたのは、真っ赤なモヒカンの鬘をかぶっている朝永だった。文字通りのおみくじ箱である。「これをガラガラ振って、赤い印の棒が出たら、あの子と“する”んだよ」

 「俺に先に振らせろ」

@…と、横から割り込んできたのはドド・アスベン。しぶしぶおみくじ容器を渡す朝永。ドドが嬉しそうに鼻歌を歌いながら、ガラガラと容器を振った。蓋にあいた穴から、一つの棒が出てきた。先が赤く塗ってある棒だ。

 「でたっ!」

@あたりが出たので、早速女に近づき、行為をしようと思った矢先のことであった。

 「う、う~んん・・・」

@突如、女がむずかり始めたのだ。3人は一同、…ぎょっとなった。

(14)に続く。・この物語はフィクションです。実在の個人・団体とは関係ありません。・

銀河系・明日の神話(12) [ドラマ・ミニアチュール]

●ロロンの受難(1)●


@惑星エリーの湿地帯・プルーレの森林で出会った、5人のエトランゼと1人のロコが、黎明の紅(くれない)の気配で目覚めだす頃、エリーから遥か離れた、有機アミノ酸を多く含む水とコラーゲンの星・ソラリスでは・・・。

@ソラリスにむかし移住し、定着したパラルー族出身の自然科学者の一人が、ロケットでエリーに向かっていた。エリーの環境や生態系の現状について、精密な調査を行う為である。

@その人物、カラルディ博士は、植物学者。といっても、その肩書きからは想像も出来ないほど、頭髪はファンキーな真っ赤で、肩までかかる長髪がのべつによく目立つ男である。今はロケット内の人なので宇宙服を着ているが、普段の服装は、黒革のライダースジャケットに、ピッタピッタで膝がわざとボロボロに裂けているジーンズ、とがったこれも革製ブーツといったいでたちで、銀河系の地球型生態系のある惑星という惑星の、数多ある植物の観察、調査、研究にその人生を費やしている。

@ご多分に漏れず、彼もいまだこの世に知られる事なく、この広い天の川銀河に点在する、緑の息づく星々の、森や林や海の中に、ひそやかに息づく新種の植物を、この手で発見してみせるという、生物学者としての野望に燃えている。野望に燃える研究者というのは、何処か狂気を秘めているものだ。カラルディの眼にも、そんな色が浮かんでいた。


@ロケットの羅針盤がエリーが近いことを報せると、彼は操縦桿を左へ傾け、エルマー・ソラ星系のある方向へと舵を切って、向かっていった。ロケットの4基のエンジンからは、青白い炎が勢いよく噴出していた。

@「さぁ、いよいよだ」そうつぶやきながら、彼は着陸の為の準備に入った。緑濃きエリーの全容が見えてきた。間もなくエリーの成層圏へ入る。かちゃり、とシートベルトを止める金属性の音が聞こえる。

@やがて、カラルディのロケットは、青白い炎のようなものを全体から噴出しながら、エリーの成層圏へと突っ込んでいった。


@同じ頃、ロロンたちのいるプルーレの西側では、何かが起ころうとしていた。昼間も薄暗いプルーレの森林地帯ゆえ、朝になってもスジのようにしか、朝日がささない。が、深く鬱蒼と茂る森の合間を縫って、朝日の光が幾つものスジとなって差し込む、そんな様は、神々しさを感じさせるほど、厳粛で美しいものであった。

@ロロンたちは、そんな光景も見ないまま、まだぐっすりと眠りの世界に入っている。他のメンバーも完全に熟睡状態である。…と、そのときである。

@RRRRRRRRR…!! 突如、田茂木茸雄の懐にある衛星携帯電話の着信音がけたたましく鳴った。
 「う・・・う~ん・・・」 
@眠い目をこすりこすり、彼は迷彩服のポケットを探って、携帯を取り出した。
 「はい・・・。うむ・・・うむ・・・。おおそうか・・・今俺たちは、エリーの南東、湿地帯プルーレの熱帯性森林の中だ。ある地点に来ると、地磁気が狂うので注意したほうがいい・・・え?俺の持っている高性能コンパスはどんな地磁気の狂った場所でも大丈夫だって?…そうか!・・・はい、はい・・解った、あとでまた連絡する、じゃな」

@電話の音で、ロロンも折角白河夜船になっていたのに起きてしまった。他の4人も、もぞもぞして目をこすっていた。 「うう~ん…誰から?」
 「友達からさ。大学時代のね」
 「どんな人なんですか?」今度は真佐雄が聞いてきた。
 「ソラリスに移住したパラルー人で、植物学者をやっている。学者といえないほどに、普段はロック歌手みたいな格好をしている、故に何処へ行っても目立つ、変わり者なのさ」
 「へぇ、あんたのそのツルツルあたまも、何処でも目立っていそうだけれどね」ジークフリートがからかうように言った。
 「余計なお世話だ(笑)」田茂木はスキンヘッドを抑えて笑った。みんな笑っていた。
 「お名前は何て言う人?」乃理子が聞いてきた。
 「カラルディ。パラルー語で“暁の使者”という意味だ。カラは使者、ルディは『暁の』を意味する」
 「暁の使者…その使者さんが、もうここに来ている、と?」ジークフリートが聞いた。
 「そうだよ、アイツは高性能のコンパスを持っているというから、ここで暫く待っていれば、必ず来るよ」
 「そのカラルディさんって、ここの植物とか調べに来たのかな」今度はプルプルが聞いた。
 「多分そうだろうと思う」
 「どんな人なのかしら?会うのが楽しみだわ」ロロンが嬉しそうに言った。
 「そうか?アイツは変人の中の変人だ。もっとも、自分でもそう言っているけどね」
 「変人の中の…?ちょっと怖いなあ」乃理子がクビをすくめた。
 「ハハ…ジョークだよ、乃理子さん」

@6人が談笑している、そのとき、迷彩模様のエアーハウスに音もなく、近づく影があった。やがて、一人の人影がエアーハウスの中から出てきた。ロロンであった。

@バケツを持って出てきたロロン。と、彼女の目の前に、黒い影がばっ!と横切ったかと思うと、たちまち彼女はその黒い影にひっ捕まえられた。

 きゃあああああああ!

@「な、なんだ!」「ロロンに何かがあったんだ!」…悲鳴を聞いてばっと飛び出す5人。が、ロロンは何処にもいない。づと足下を見ると、草木の露球を集める為に彼女が持ってきたバケツが、湿った地面の上に転がっているだけだった。

@田茂木は声を振り絞り、懸命に彼女の名を呼んだ!
 「ロローン!何処にいったんだー!…」

@「ロローン!」・・・他の4人も、彼女の名を呼んだ、が、返事はなく、ただ、森じゅうにこだまのようにむなしくひびくばかり。彼女の返事は当然ながら、ない。

@「何処へ連れて行かれたんだ!」心配の色を浮かべて、4人は、ただ、森の中にたたずむしか、今はなかった。鱗木や古代蘇鉄の樹冠のほうから、きぃーや、きぃーや!と鳴く動物の声が、大きく響いていたが、4人の耳には、それが、何処か遠くから聞こえてくる生き物の声のように、感じられた。


・(13)に続く・この物語はフィクションです。実在の人物、団体等とは関係ありません。



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銀河系・明日の神話(11) [ドラマ・ミニアチュール]

●モルディカヤを求めて、そして●


★「お…おわわ…」 3人の中年男たちは、各々歯を五月蝿いほどにガタガタ言わせ、びびりまくっていた。「ひ…ひいっっ…!…お、おたすけをぉぉぉ・・…」 

★哀れな3人を見つめていた、青年は、破顔一笑し、「ハハ…もう助かってますよ」。

★「え?!」、きょろきょろと3人が見回したところ、目の前にさっきまで自分たちに襲いかからんとしていた虎が、ドーンと横たわったまま、びくとも動かないではないか。

 3人「ひ…ひえぇぇぇ!」

 青年「もっとも、いま撃ったのは麻酔弾です。あと小市時間もすれば、こいつは目を覚まします、御三方、今のうちにご退散なさったほうがよろしいのでは?」

 ドド「え、えええ~!? 死んでるんじゃないの?」 
 
 朝永「…兎に角此処を離れなくては…あ!こ、腰が…」

 アスピナーレ「腰が…如何した?」

 朝永「…ぬ、抜けちまった…!」 2人「うわ~!! ヤバイ、ヤバイ!」 

★ドド・アスベンとアスピナーレの2人は、朝永の両腕を2人で担いで引きずりつつ、よたよたとその場から逃げ出していった。

★「何という奴らだ!助けてあげたのに礼も言わないなんて」 プルプルがむくれながら言った。「まあ、ほうっておけ。それより、僕達も此処を早くあとにしないと、虎が眼を覚ましてしまう」 

 プルプル「そうだった!」 若者3人もその場を足早に去った。


★何処のあたりまで歩いた事だろう。岩沢真佐雄、森沢乃理子、プルプルの3人は、プルーレ湿地帯森林のおそらくは奥深いところへ迷い込んだようである。

★乃理子が方位コンパスを懐から取り出す。が、磁針はぐるぐると回っている。そのことが乃理子の心象に不安の影
を齎した。「地磁気が狂っているわ…」

★「如何だい?」と覗き込む男子2人。が、乃理子の顔は不安に曇っているし、方位磁針はぐるぐるをやめない。回りつづける方位磁針を見て、男子2人も、すぐに不安になった。
 「こりゃあヤバイ。明らかに地磁気がおかしくなっている」

 「俺たちは、如何やら、二度とは戻れない森の奥地にきちまったんじゃないかしら・・・」
 「やめてよ!…」乃理子が今にも泣き出しそうになった。
そのときだった。

★「俺に任せろ」そういったのは、他ならぬエリー土着の住人、プルプルだった。ビーダマのように丸くて大きな彼の両眼が、きらり、と輝いたのを真佐雄は見逃さなかった。

 「そうか!彼はもともとこの星の、『トゥープゥートゥー』村の住人なのだ。15年前に再会したとき、彼は旅人の案内役をしていたから、このエリーの地理に詳しくないわけはない」 真佐雄と乃理子は、彼に身を任せ、この迷宮の如き湿地林を進む事にした。

★地球人の真佐雄と乃理子より、背丈が大きく2m近い、緑色をした毛むくじゃらな大男のプルプルは、左の腕に、真佐雄をしっかと抱え、右の腕に乃理子を抱えた。彼女の身体に右腕を回して抱きしめたとき、女の肉体のやわらかさをプルプルは右のかいなに感じ、身体の奥が熱く燃えるのを覚えた。そして彼は、自分が未だに乃理子を心底愛している事を確かめるのだった…。彼の口からごく小さな、溜め息が、漏れた。「嗚呼…」


★一方、幻の蝶「モルディカヤ」を探しにプルーレを探検しているもう一つの一団…惑星昆虫学者の田茂木茸雄、超高性能女形ヒューマノイドのロロン、同じく男形のジークフリートの3人は、先の3人組が歩いている方向とは、今、まったく反対側の向かい合わせの、道なき道を進んでいた。

 田茂木「うーん、なかなか、見つからない・・・」

 ロロン「如何するの?茸雄さん…」

 田茂木「確か此処の森にひっそりと生息していると、データにはあるはずなんだがなぁ…」

 ジークフリート「田茂木さんの持っている蝶類分布のデータ、些か古くなってないですか?」

 田茂木「オレの持ってきた蝶の分布データは、最新の調査結果で得られたデータだ。古くはないさ」

 ロロン「でも、ひょっとしたら・・・絶滅しちゃった・・・かも・・・」

 田茂木「まさか!・・・必ず居るはずだ。幾ら温暖化が進んでいるとはいえ、簡単にあの蝶たちが、滅びるものか」

★とかなんとか口々に3人が言いながら、先へ、先へと進んでいくと、…

 「おや?」 先頭を行く田茂木が不思議そうな顔になって、先を指差した。「見ろよ、あそこになんだか人影らしいのが3つあるぞ」

 ロロンとジークフリート「どれどれ・・・あっ!」

★それは何と、巨大な毛むくじゃらの生き物の両脇に抱えられた、2人の地球人らしき男女だった。田茂木らがどんどん歩いていくと、ぼんやりしていたそれらの姿が、徐々にはっきりくっきりしてきた。

★突如、田茂木は声をあげた…!「おおっ!あれは…!の、乃理子くんじゃないか?」 彼の後ろを行くロロンも声を揚げそうになった・・・ああ!あの人は、ベルベルの神殿で2人が出会った、森沢乃理子さんだわ・・・!彼女は思わず大きな声で呼びかけた。

 「乃理子さーーーん!」

★そのとき、乃理子は自分を呼ぶ声がしたようなのにびっくりして、耳を済ませた。真佐雄とともに、プルプルのがっちりした腕に抱かれ、逞しい毛むくじゃら男の身体の温かさと、息遣いと心音の響きを聞きながら…。

 「乃理子さあああーん!」

★「嗚呼!あの人だわ!確かベルベルで出会った、ロロン…ロロンなのね!田茂木さんも一緒だわ!」 乃理子には、自分達の向こうに居る一団が何者か漸くわかった。彼女は一団に向かって手を振った。

 「ロロ―ン、私よー!乃理子よー!」

★やがて…彼らは顔と顔とが触れ合う距離にまで近づいた。ロロンと森沢乃理子は、互いの顔を見るなりささっと近寄り、互いに抱き合い、久しぶりの再会を喜び合った。田茂木茸雄も、彼女との再会を心から喜んでいる。

 「ロロン、あれから如何していたの?二度と合えないと思っていたわ…」「私も…」

★女たち2人の綺麗な眸には、それぞれに涙が浮かんでいた。それを観ていた男たちは、田茂木を除いては、2人のこんな姿を見るのは初めてである。

★乃理子は、田茂木とロロンを、真佐雄とプルプルに紹介し、次に、2人を田茂木とロロンに紹介した。

 田茂木「地球で惑星昆虫学者をしている田茂木茸雄と言うものです。こちらのロロンは、パートナーです」

 真佐雄「そちらに居る、もう一人の彼は?」 田茂木は、ロロンのうしろに居る若造を紹介した。「ジークフリートだ。ちょっと訳があって、俺たちといっしょにいるんだ」、真佐雄が手を差し出して彼と握手したとき、彼の手の冷たさに真佐雄はぎょっとした。「アンドロイドじゃないか…」

★田茂木と握手したとき、地球人のような手の暖かさを感じた。が、彼の、毛穴のない異様にツルツルした頭部を見たとき、真佐雄は驚いた。田茂木の頭部が、自分が見てきたプカスカの住人のそれにそっくりだからだ。

 真佐雄「田茂木さんは・・・ひょっとして、惑星プカスカの人なんじゃないんですか?」 田茂木の顔に一瞬、驚きが走ったが、すぐに平静になるなり、こういった。

 田茂木「俺はプカスカと地球の2つの血を引いているのさ。オヤジはプカスカ、おふくろは地球人、しかも、日本人だ」


★やがて日も暮れ始め、合流した6人は、プルプルの道案内で先に進み、ようやく、田茂木たちがキャンプを張っている場所にやって来た。「テントは生憎ながら3人用だ。みんな入ったら、ぎゅうぎゅう詰めになっちゃう」

 「ここまで来て、すし詰め満員電車の気分を味わうのは、ご免蒙るよ。後ろの毛むくじゃらのプルプルはでかいし、何よりお嬢さん2人がかわいそうだ」

 「そういうと思って、実はいいものを用意してきたんだ」 そういって田茂木が懐から取り出した、風船の如きものをハンドポンプに取り付け、足で蛇腹のようなふいごをフコフコ押してぷわ~っ、と膨らますと、テントの形をした「エアーハウス」なるものが現われた。

 真佐雄・乃理子・プルプル「おぉ~!」

 田茂木「これなら6人は裕に過ごせるな」

★夜もすっかりふけた頃、彼らは昼間のそれぞれの、冒険ですっかり疲れきった心身をその「エアーハウス」の中で横たえ、重なり合い、あるものは抱き合い、あるものはらくだの毛布を頭からすっぽりかぶって、すやすやと寝入っていた。

★エアーハウスの中で、男女の営みが始まった、坊主頭の男と緑色の眼をした女、若い日本人同士の男女が、それぞれ、肉体を愛撫しあい、互いにさかりのつきし獣の如き声をあげ、激しい吐息をもらして、延々と行為に没頭していた。

★プルプルとジークフリートは、互いに抱き合い、らくだの毛布にもぐりこんで寝ていた。…かくて、プルーレの夜は白々と明け始めた。


・(12)に続く・この物語はフィクションです。


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銀河系・明日の神話(10) [ドラマ・ミニアチュール]

●再びプルーレ湿地帯にて●


@幻の蝶「モルディカヤ」を見つけようと思い立ち、湿地帯プルーレの探検を始めた、惑星昆虫学者の田茂木茸雄とその助手役で女性型高性能ヒューマノイドのロロン、同じく男性型のジークフリート。鬱蒼たる上にしっとりべったりとした空気が肌に張り付く、昼間も薄暗い、古代植物が生い茂る密林の中を、昆虫採集機器一式を持ち歩き、迷彩姿に身を包んで、ガサガサガサと行軍している。

@時折3人の鼻孔に、ほんのりと入ってくる、未だ見たこともない、この地ならではの花たちの、馨しい香り。その芳香が、彼等の足取りを軽くする。

@田茂木は捕獲ネットを持ち、お目当ての蝶がやってこないか、今か今かと待ち構えながら先頭を歩いていた。と、彼の目の前を、ひらひらっ、とよぎる影が!

 「よっ!」 さっ!…気合を込め、剣を振るうようにネットを振り下ろした。手ごたえがあった。素早くネットを握って引き寄せ、中の獲物をよくよく見た。獲物はパタパタと、激しくネットの中で羽ばたいていた。

 「獲れた?」ロロンとジークフリートが、捕獲ネットを持っている田茂木の前によってきた。

 「うーむ」…如何やら、お目当ての種類ではないようだった。「こいつは『アマタラ』だ」

@ネットに入っている蝶…アマタラは、紫がかった金属光沢の、青い色の光を放つ、地球で言うモルフォによく似た、ここ惑星エリーではお馴染みの種類である。ロロンはこの蝶を標本では知っていたが、本物を見るのは初めてだ、と言った。

 「これが…これがアマタラなのね!とっても綺麗に輝いているわ!」彼女は生きているアマタラを見られたので、いたく感動していた。緑色の澄んだ眸が、キラキラと輝いている。生きているアマタラの姿がその瞬間、彼女の脳型コンピュータにインプットされた。

@無論、ジークフリートにとっては、アマタラは未知の蝶類であった。初めて見る金属光沢に輝く蝶の姿に、しかし、彼も魅せられていた。「綺麗だなぁ・・・」 彼の脳型コンピュータにも、この美しいアマタラの姿が、しっかりとインプットされ、サーバに保存された。

@田茂木は、お目当てでなかったこともあってか、ネットからアマタラを森の中へと、解放した。やっと解放された喜びにか、アマタラは、嬉しそうにやわらかに、ひらひらと飛翔して、薄暗い森の彼方へと消えていった。ロロンとジークフリートは「嗚呼もったいない」といった顔をして、蝶の飛んでいった方向を見つめていた。

@「しゃあないわ。先をいこう」と言って田茂木は、捕虫網を手に、採集用品一式を肩から掛けて、あとの2人を連れて、森の中をモルディカヤを探しに、歩いていった…。

@丁度その頃だった、あのヘンな科学者連中3人が、プルーレの中心部にある田牟礼湖のほとりで、なんと!エリーの剣歯虎(サーベルタイガー)に襲われていた。

 うわああああ~!! ピュピューン、ピューン!

@3人は腰にぶら下げている光線銃を撃ちまくりながら、サーベルタイガーの攻撃をかわしていたが、

 ぐぁあおおおー!!

@渾身の力を込めて思い切り飛び掛る巨大な猛獣の前には、3人の命は風前の灯と思われた、が、そのとき!

 バァーン!

@大きな銃声がした、と思う間もなく、虎はどおっと彼等の目の前で、いきなり倒れた。鉞のように馬鹿でかい牙が目立つ、大きな口をあけて、ガアー!と一声吼えると、虎は、そのまま動かなくなった。

@「あわわわ…」ガタガタ震えまくる3人の前に、一つの人影が現われた。3人が恐る恐る見上げると、其処に立っていたのは…。狩猟用のライフルを手にした、一人の若者だった。否、あと2人いる。それは妙齢の、サラサラと流れるような美しい黒髪の女性と、緑色の毛皮に覆われた、ビーダマのように丸いぎょろぎょろとした眼を持つ巨体の男だった。

・(11)に続く・この物語はフィクションです。・続きは後日掲載の予定です。・

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銀河系・明日の神話(9) [ドラマ・ミニアチュール]

●地球の文明に侵食されるエリー●


※トゥープゥートゥー村にて。村のとある木の天辺に設えられた、小さなゲストハウスの中に、岩沢真佐雄は一人でいた、まだ小学生だった20数年前からこんにちまでの来し方に、思いをはせながら。

※小学5年だった真佐雄と乃理子が、初めてここ惑星エリーに来た頃、地球の文明が浸透しているところは、今は砂漠化し、ゴーストタウン状態となっている植民地附近だけだった。が、その頃から、地球文明はゆっくりと、確実にエリーを侵食していた。

※緑濃き森の中にある、あのトゥープゥートゥー村だって、彼等2人が訪れた当初は、住民には「名前」というものがなく、誰でもが「トゥープゥートゥー」なる呼び名であった。それが、15年位前から、みんな個々に「名前」をつけて、呼び合うようになっていた。

※地球からやってきたある学者が「此処の村人全員の呼び名が『トゥープゥートゥー』というのは紛らわしい。一人一人に個別の名前をつけるべきだ」と村人に教えたからである。また、村の集会場にある厠に設えられた、水洗式の洋式便器も、ほぼ同じ頃地球人の「篤志家」から寄贈されたものだ。

※真佐雄と乃理子と仲良しのプルプルも、彼等と出会ったばかりの、小さかった頃は名前がないので「トゥープゥートゥー」と呼ばれていた。彼が「プルプル」と呼ばれるようになったと聞いたのは、中学生になって再び乃理子と一緒に此処を訪れた時、彼と再会した頃のことである。そのとき、彼は今ぐらいの身体の大きさに成長していたので、びっくりしたのを未だに忘れられない。その彼が2人に向かって、嬉しそうにこういっていた。

 (プカスカ語で)プルプル「ねぇねぇ、俺、名前がついたんだよ!」

 (真佐雄と乃理子の)2人(びっくりする)「えっ、名前?…名前が、ついたのかい?トゥープゥートゥー?」

 プルプル「『プルプル』っていうのさ!地球から来た学者さんが、君に相応しいのはこの名だ、と言って、名づけてくれたんだ」

 乃理子「プルプル…!あなたにぴったりの名前ね!」

 プルプル(乃理子の顔を見つめて)「ありがとう…!」

 真佐雄「今日から君は、『プルプル』なんだね!プルプル、これからも、よろしく!」

 プルプル「うん!よろしく!」

 乃理子「プルプル、何時までも私達、あなたの友達よ。ずっと仲良しでいましょうね!」 …

※あれから15年…その間に、地球上でホモ・サピエンスが長年作り上げてきた「文明の精華」なるものが、次々とエリーに上陸していった。そして今、その精華なるものが、斯くもこの翡翠の如く美しい緑の惑星に「近代化」を齎しつづけ、その「代償」としてこれまで誇ってきた、生物多様性と豊穣が失われてしまっているとは。

※真佐雄は、プルプルが自分の名前をもったことを誇らしげに、又嬉しげに話してくれた15年前を思い出し、あの時エリーに入り込んでいた地球文明の「負の作用」が、今やこの星に深刻な危機を齎している事を、深く憂えていた。

※“あの頃から、宇宙旅行を扱うツーリング会社が、“銀河系屈指の桃源郷”と銘打ち、惑星エリーを大々的にPRしていて、その影響で観光客が大挙してエリーを訪れるようになったそうだ。

※観光客のホトンドがアジア系、それも中国系とアラブ系の成金ばかりだった。そんな彼等が近年、エリーに次々と莫大なコスモ・マネーを落とすようになってからというもの、我々の文明によるこの星の侵食は一層進んだと聞いてはいた…。が、実際に此処を訪れてみて、あれほどまでに酷く進んでいるとは思いもよらなかった。…”

※“鬱蒼たる豊かな森は切り開かれ、次々とリゾート地が開発されて、星の豊穣は失われ、それにつれて地球を始めとする他所の星から、外来生物が入り込んできてしまい、在来の生き物たちは住処を追われ、中には絶滅してしまったものもある…。

※そして今や、この星の生態系と豊穣は、かなりの程度、壊されてしまった。…この間、巨大ユンボに乗ってやって来た、プルプルを負傷させた地上げ屋如きのような、土地利権に目のない連中が、今このときも、この星の何処かを荒らしているかと思うと……こうなった責任は、俺たち地球人全体にある!…”

※…そこまで思い至った真佐雄は、両方の拳をグッと、握り締めていた。拳はワナワナと震えていた。


※「真佐雄」後ろで呼ぶ声がした。はっ!として振り向くと、プルプルが乃理子と一緒にいた。

 「如何した、真佐雄?顔色が青くなってるよ。具合、どっか悪いのかい?」

 「い…いや、なんでもないんだ」真佐雄は慌てて、カブリを振った。その顔は心なしか青みを帯びているように、プルプルには見えた。が、彼はそれには気付かない振りをして、そっとしておこうと、真佐雄の傍を離れた。


(10)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語

銀河系・明日の神話(8) [ドラマ・ミニアチュール]

●プルーレ湿地帯の密林にて●・第2章・


★数ヶ月前から、この惑星エリーにやって来て、何かを待っているらしき3つの影がある。昆虫学者の朝永、物理学者のドド・アスベン、ロボット工学者アスピナーレの3人だ。

★何れも「科学すること」を生業にしている身でありながら、堅持すべき知性と理性を放り出し、一人の機械女を若き昆虫学者のもとから収奪し、おのおのの卑しき欲望を満たすだけの道具にすることしか、今は考えていない。

★その機械女を一番欲しているのは、ほかならぬ朝永、田茂木と同業のこの男である事は言うまでもない。彼女を奪うべく、彼は2人の共謀者とともに、彼等より先にエリーに来て、彼等がやって来るのを今か今かと待ち構えているのだ。

★「何とかしてロロン号を田茂木のところから奪って、頭の天辺の白スイッチを押したいものだ。初期設定に戻してから、ダッチワイフモードのボタンを押して・・・そのままにすれば、永久にあの娘は俺のもの・・・クヒヒヒヒヒヒ」卑しい笑いを口から漏らす朝永。
 
 アスピナーレ「おい、見つかったら如何する!聞こえているぞ・・・!」

★3人がいるのは、湿地帯プルーレの真ん中にある田牟礼(たむれい)湖のほとりの、彼等によるアジトのテント。

 朝永「平気だよ。まだ奴等はここまで来てねぇよ」
 
 ドド「お前の笑い声は、でかすぎるんだよ!」 

★朝永はドドにこう反論した。「此処は何処だと思う?湖を発見した田牟礼博士と数人の学者以外、誰も知らない湖なんだぜ!あいつら如きが・・・知ってるわけないじゃん」


★しかし・・・朝永の考えは、如何やら覆される運命にあるようだ。 実はジリジリと、田茂木、ロロン、ジークフリートの3人が、このプルーレ湿地帯目指して進んできているのだ!


★惑星エリー上空を、高出力ガスタロンエンジンを搭載し、コックピット中央に最新鋭脳コンピュータで動く超高性能インテリジェンス・ギャラクシーコンパスをそなえた、銀色の宇宙航行機・ガルーに乗って飛ぶ3人の若者たちの眼前に、熱帯性の樹木の、こんもりとした塊が出現した。コンパスが目的地の名前を告げた。

 「間もなく、エリー星南東の方角にある、熱帯性湿地帯上空に差し掛かります。これから噴射口の角度を90°垂直にして着陸態勢に入ります。クルーの皆さんは保護ベルトをしっかり締めてください」

★コンパスの脳型コンピュータには、プルーレのある場所など、とうにお見通しなのだ。「解っているさ」操縦桿を握る田茂木がつぶやいた。

★ゴゴゴゴ・・・ガルー号は噴射口の角度を垂直に変え、着陸モードに入った。やがて湿地帯の木々のないところにゆっくりと着陸しようとしていた。轟音は次第にゆっくりになり、熱風が巻き起こり、草が埃とともに舞い上がった。

★ロケットは無事に着陸を遂げた。ハッチが開いて、タラップが伸びると、ピタピタした服に身を包んだ3人の若者が次々にタラップを降りてきた。先頭の者が重たいヘルメットを外すと、艶々したスキンヘッド男の顔が現われた。田茂木茸雄である。そのすぐ後ろでヘルメットを外したのが、ロロンである。彼女のサラサラした、美しい黒髪が、さっと温い風に靡く。ジークフリートがその様を見る。

★靡く彼女の髪から匂う微かな芳香は、100年ほど前に当時最新のバイオテクノロジーの力で誕生した、バイオ・ブルーローズのほのかな甘い香りであった。これを嗅いだジークフリートの心はいっときのあいだ、甘美な幻想で満たされた。「行こう」田茂木の一声で、彼ははっと我に返った。・・・程なく一行は、プルーレ湿地帯の東側の茂みに入っていった。


★東側の茂みに入った。野営の為の簡易テントを張る手伝いをしながら、ジークフリートはロロンを時々見つめて、こんなことを考えていた。

 “あの子が私のものになってくれるなら、・・・仮令一時でもいい・・・あの子が私のものになってくれたら・・・!”

★ロロンは、田茂木と一緒に、昆虫採集用の器具一式の用意や観察撮影の為の超小型デジタルカムコーダの設置など、生物調査用の機器の準備に取り掛かっていた。ジークフリートは迷彩模様の簡易テントを雨風で外れないようにしっかりと、金杭で止めていた。テント四方の隅に穿たれた金杭の上をカン!カン!と玄翁で叩いてしっかり固定しないと、風雨が激しく吹いた際、テントが飛ばされてしまうからだ。そんな作業をしているときも、頭の隅っこでは彼女を思っていた。

★野営の準備が完了すると、彼等3人はひと休みした。プルーレ東側の、ジャングルを吹き抜ける風は、流石に熱帯性だけあって、恐ろしく湿気を含んでいた。木々の地面を見ると、透き通った美しい緑色の苔や小さな草、大木の若い苗木が茂り、それらに、キラキラと丸い、澄んだ露の珠が無数についていた。あたりは鬱蒼たる古代樹の群生ばかりである。鱗木、セコイア、古代蘇鉄、ヒカゲノカズラなど、地球でとっくの昔に滅んだ植物たちとそっくりな草木が沢山生い茂り、中心にある田牟礼湖や、森の中にも地球で絶滅した古代生物に酷似した生き物が沢山息づいているという様は、生物学を生業としている者たちの、好奇心と探究心をいたく刺激するのである。

★ほかならぬ田茂木茸雄も、惑星昆虫学者だけあって、まだ見ぬ未知の蝶類を探し当てたいという、虫屋特有の探究心が、心の奥底から、むくむくと湧きあがっているのを抑えきれなくなっていた。

 「モルディカヤ・・・!」 

★田茂木の脳裏に、盟友キメラから貰った、宝物の標本の蝶の姿がよぎった。彼は、明日にでもモルディカヤを探しに出かけたいと思った。彼はそばにいた2人に話した。
 
 「ロロン、ジークフリート。明日はこの森の中を探検するぞ」

・(9)に続く・この物語はフィクションです。
タグ:SF物語

銀河系・明日の神話(7) [ドラマ・ミニアチュール]

●エリーに迫る危機(4)●(第1章終わり)

☆毛むくじゃらの巨人・プルプルと、真佐雄と乃理子が互いに抱き合い、飛び跳ねながら喜び合っているところへ、集落の他の住人たちも、わあああ~!! と歓声を上げて、わらわらと村の広場に集まってきた。そして真佐雄と乃理子をこちょこちょとくすぐり始めた。ワハハハハ・・・2人は身体をよじらせながら、楽しそうに笑っていた。集落の人々は、みんなプルプルと同じように、緑色の毛皮に覆われた姿をしている。

☆やがて、村人たちが彼等3人を囲み、優しい歓迎のメロディを口ずさみ始めた。プルプルも村人と一緒に歌い始めた。彼等「トゥープゥートゥー」村の住人たちの、土着の言葉は、「歌」=メロディなのである。真佐雄と乃理子にとって、それは懐かしい思い出の歌声だった。真佐雄と乃理子は、すっかり感激し、胸がいっぱいになった。

☆乃理子は美しい眸に涙を浮かべ、長い睫を濡らしていた。荒廃しつつある緑の星の中にあっても、この村の人々は、子供の頃に会った時と、少しも変わることなく、自分たちを歓迎し、愛してくれている…。歓迎の歌の響きに包まれながら、2人は、それまでこの惑星が荒れていく悲しみに打ちひしがれていた自分達の心が、温かくほぐされ、癒されていくのを感じていた。

☆2人を囲む村人の環は、何時何時までも回っていた。

☆それから2人は、生い茂る木がそのまま家になったような家屋だらけの村の中に入り、高い樹木の上に作られた村の集会場で、住民たちの手厚いもてなしを受けた。そのとき2人は、婚約した事を村長さんに伝えた。それを聞いた巨人プルプルは、さっと立ち上がり、集会場の奥にある厠(トイレ)に入って、扉を閉め、声を殺して泣いた。

☆やがてプルプルは、初めて乃理子と会った時から、彼女が大好きだった。2人が結婚するのは嬉しいけれど、でも、好きだったんだよ、心から深く・・・愛して、いたんだよ…♪と、乃理子の幸せを願う一方で、彼女が真佐雄の嫁さんになるということへの一抹の寂しさを即興のメロディにして、泣きながら厠の中で歌っていた。

☆余談だが彼が座っていた便器…実は最近になって地球から齎された、洋式便器であった。

☆さて、宴会の酔いを覚まそうとトイレへと向かう廊下を歩き始めた真佐雄は、えもいわれぬ哀愁のメロディが厠の扉の向こうから、幽かに流れてくるのを耳にした。「プルプルかい?」歌がピタリと止んだ。何時からか真佐雄の背後に乃理子もいた。扉の向こうで、巨人の体がカーッと火照った。

☆「お願い、もう一度歌って…」乃理子が厠の扉の外から優しくこういうと、プルプルはもう一度、哀愁のメロディを歌い始めた。優しくも悲しみと寂しさが篭もった響きの歌は、乃理子を涙させた。プルプルが歌いながら、厠から出てきた。彼のビー球のようなまん丸い眸が涙で濡れていた。真佐雄も泣いていた。巨人は彼等2人を優しく抱きしめ、何時までもその歌を歌いつづけていた。

 ♪始めて会ったときから、乃理子、君が好きだった・・・
  2人が結ばれるのは嬉しいけれど、・・・
  乃理子・・・ボクは本当に好きだったんだよ・・・
  心から君を・・・深く愛していたんだよ・・・♪

☆プルプルの厚い胸板と二つの腕(かいな)は、とてもたくましく、温かであった。宴会に集っていた他の村人も、何時しか3人の周りに集まってきて、泣きながら唱和し、真佐雄と乃理子の門出を祝った。

☆翌日、彼等2人は、嘗てこの村で、結婚の印として乃理子には赤い珠を、真佐雄には黒い珠を、子どもだった2人に差し出した、あの年老いた長老の葬られているという、村の墓所に案内された。

☆恩義あるかつての長老に、婚約の報告をするのだ。墓所は家屋と同じく木の上にしつらえられていた。2人は案内役の村人やプルプルとともに、座って深々と礼をし、慰霊のメロディを口ずさみ始めた。神聖で麗しい旋律が響き渡る、厳かな雰囲気に包まれる中、地球人の若者と乙女は、ともに純潔を意味する白い衣に身を包み、プカスカの言葉で婚約の報告をした。そして各々持ってきた、赤と黒の珠を墓前に捧げた。

☆墓所を後にした2人と、トゥープゥートゥー村の2人は、村の広場に向かって歩き出した。すると、そのとき…。


☆ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!と、まるで地響きのような轟音がしたかと思うや、いきなり向こうから巨大なユンボ(重機)が姿を現わしたではないか。それはまっ黄色をした、パワーショベルではないか。

☆うわーッ!彼等4人は悲鳴をあげながら、パワーショベルから逃げようとした。必死に逃げた。パワーショベルから大きな割れ鐘の如きだみ声が聞こえた。地球からこの惑星エリーにわざわざやってきた、地上げ屋だった。

 声「こりゃー!!! 今度こそ土地を明渡して貰うぞー!! トゥープゥートゥー村のしょくーん!! お前等の土地は、おれらのモノにとっくになってるんだよー!!」情け容赦なくゴゴゴゴ…!と轟音を上げて突進する巨大ユンボ。

☆4人はもう兎に角逃げる事で精一杯。しかし・・・

 「オラオラー!! 言うこと聞かんと、このジャンボキャタピラで轢いたるどー!ハハハハハハハ…!」

☆…パワーショベルは、追いまわす事をやめない。事態を知った村人たちがすぐにやってきて、漸く4人をかくまった。…む?…一人足りない!
 
 真佐雄「プルプル!」
 乃理子「プルプルは?!」

☆プルプルは何と、巨大パワーショベルのキャタピラにしがみ付いていた。彼は怒りを込め、怪力を発揮して、キャタピラを止めていた。彼は叫んでいた、

 「此処から先は・・・行かせはしない!村は俺たち『トゥープゥートゥー』族のものだ!うむむむ・・・」

☆地面に減り込んでいた彼の短足が、パワーショベルのキャタピラの駆動力に押され、ズルズルと集落の側に進んでいく。

 「ぷ・・・プルプル!」

☆彼の形相は必死そのものだった。ついにキャタピラが止まり、重機の運転席から迷彩服の男が降りてきて、手にしていた長い鉄パイプを、プルプルに打ち下ろした。
 
 「何だおまえは!離れぇやぁ!さっさと!」男が叫びながら鉄パイプを打ち下ろす。

 バシーッ!バシーッ!バシーッ!鉄パイプは容赦なく、プルプルの逞しい肉体に打ち下ろされる。
 「あ、あああーっ!」背中の皮が裂け、鮮血が飛び散る。深紅の薔薇の花びらのように・・・。

 「や、止めろー!! わーん・・・!」 悲痛な声をあげて泣き出す村人たち。泣き声は悲痛な旋律となって、緑濃き村中に響き渡った。

 ウィーン、ウィーン、ウィーン・・・。

☆「ぐああああー!」 野太い悲鳴をあげてもだえるプルプル。そのときだった。
 
 
☆ピイイーッ!鋭い何者かの鳴き声が聞こえたかと思うや、真白い優雅な鳥が現われ、鉄パイプを持つ男を突っつきだした。

 「トウーンだ!」 真佐雄が叫んだ。銀河系の生命が息づく星では何処でも見かける優美な白い鳥・トウーンである。それは地球で「白鳥」と呼ばれている鴨族の鳥と酷似していた。

 ひ、ひえええええ・・・!!

☆男はたまらず、ユンボに乗り込み、ゴゴゴゴ…と轟音を上げ、ほうほうの体(てい)で逃げていった。
 「クソー、覚えてろよー!!」

☆九死に一生を得たプルプル。真佐雄と乃理子、他のトゥープゥートゥー村の人々がわーっと寄って来て、プルプルを担ぎ出していった。彼の背中は皮膚が裂け、赤い肉が見え、緑色の毛皮は赤黒くなった血がこびり付いていた。

☆血とあざだらけになったプルプルを、2人は心を込めて介抱し、数日間看病した。村に生えている傷によく効く生薬「パシナラ」の煎じ薬を与えつつ、様子を見ること1週間。プルプルの傷はみるみる良くなり、容体も快方に向かっていった。傷の癒えつつあったプルプルは、真佐雄と乃理子の前で、こう語った。↓

 「あの時、トウーンが来てくれなかったら、僕はあの巨大なユンボの下敷きになってたかもしれない・・・」

☆その夜のこと。真佐雄と乃理子は身体の包帯がまだとれていないプルプルに呼ばれた。今夜はそばにいてほしいと、彼は2人に歌で伝えた。それは何ともいえない、甘い魅惑のメロディであった。

☆やがて3人は互いに愛の大切さ、愛の欠点について、長いこと、夜のふけるも忘れ、語らっていた。

☆深夜、語り疲れた3人は身体をくっつけて、フトンに包まってすやすやと眠り始め、夢の世界に入っていった。真佐雄は乃理子の身体を、マラソン選手のように引き締まった逞しい胸に引き寄せ、優しく抱きながら眠っていた。

☆包帯を巻かれたままのプルプルは彼等2人の横で、“出来る事なら・・・この娘を・・・乃理子を・・・でも、それを・・・やっては・・・”と考えていた。そのうちにうつらうつらとして、すぐに眠りに落ちていった。

☆プルプルは、その夜、乃理子を掻っ攫って、駆け落ちする夢を見た。彼女は薄衣を纏っただけの姿で、プルプルの夢に現われた。夢の中の2人は、森の中を必死に歩いて、まだ見たことも行った事もないという“謎の桃源郷”を目指していた。はっ!として目が醒めたとき、

 「俺としたことが…!何故あんな夢を」 巨人は又も、全身がかぁーっと熱くなるのを覚えるのであった。

☆夜は白々と明けようとしていた。プルプルは立ち上がり、木々の梢を赤く染めて昇る太陽を見つめたあと、厠に入った。

(終わり)・この物語はフィクションです・第2章へ・
タグ:SF物語
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